私が、マツナガレイコを見初めたのは、ジンカクカイギシツという、ちょっといいかげーんなカイギシツの中でした。そのカイギシツでは、マツオタカシという悪人が、怪人二十面相ばりにさまざまな人間になりすましていましたが、マツナガレイコは、彼に負けず劣らず、さまざまな女になりすましていました。
私は、なりすましている人をみるとダメなんです。惚れちゃうんですよ。だいたい「なりすます」って何ですか。その人に「なり」きって、「すまして」いるんです。きっと。
彼女とデートをしたい。と思った私は、ジャルにのってナイロン国をたずねました。マツナガレイコはナイロン国の四女です。国王のサンドロヴィッチ氏をその住まいであるガクヤまで訪ね「娘さんとデートをしたいのですが」と申し上げますと、サンドロヴィッチ氏は四つの単語を私に言い残して、その足でフリドニアにお発ちになってしまわれました。
残された私とマツナガレイコは、宰相のエトウ女史の手引きもあって、アガペー国に亡命したのです。驚いたことにアガペー国では悪人マツオタカシが国王になりすましていました。しかも、明日、宮中にて御前試合を行うというのです。
もちろんマツナガレイコは御前試合でさまざまな人間に「なりすまして」悪漢たちをばったばったとなぎたおしていったのです。そして決勝は、ソトバ公国のヤマニシアツシとの一騎討ちとなりました。さて、どちらが勝つのか? 固唾を飲んだ瞬間、ヤマニシは突然、「そんなこと言うてんと飲みに行きましょや」。もちろんマツナガレイコが勇敢にもそれを受けたのは言うまでもありません。私が惚れなおしたのは言わずもがな。です。
こうして、めくるめくような膨大な量の台詞の応酬のなかで、マツナガレイコと私の蜜月の日々は過ぎて行ったのです。このときのことは、後年、ナカジマラモ氏が「チョーローデン」という物語にまとめていますので、興味のある方はそちらをどうぞ。
しかしそんな日々も束の間、ある朝、私が目を覚ますと、マツナガレイコは消えていました。置手紙ひとつ残さずに。
風の便りに、ファイという町で怪しげな石を売っているだとか、ゾウという町で看護婦をしてるだとか聞きました。どれもうわさに過ぎません。傷心の私は旅に出ることにしました。ワゴン車を一台買って、リバウンド号と名づけ、数人の仲間とともに、さあ、出発だと車に乗り込みますと、なんと、マツナガレイコが不思議な微笑みをたたえて、車内で待ち構えているではありませんか。
私たちの旅の趣旨は、その瞬間から冒険旅行に変わりました。
そして、この「リバウンド号」での冒険の物語の行方は、二月に劇場にてお確かめください。